今日は乳がんに関するメルマガから
気になった学会レポートを転載します。
出典:日経メディカルOncologyリポート
著:森下紀代美=医学ライター
乳癌の化学療法でさらなる個別化を目指す取り組み進む
乳癌に対する化学療法は、個々の患者に適した治療の提供が
より重視されるようになり、実現に向けさまざまな取り組みが
行われている。
pCR(病理学的完全奏効)を目標にした初発乳癌に対する
術前化学療法、再発抑制を目標とした術後化学療法、予後改善や
QOLの改善を目標とした再発乳癌のそれぞれにおいて、
個々の患者に合わせた治療強度や薬剤の変更が行われている。
福岡市で7月に開催された第25回日本乳癌学会学術総会のシンポジウム
「初発・再発乳癌に対する化学療法(単独および併用療法)の新たな展開」
(座長:くまもと森都総合病院乳腺センター・西村令喜氏、
名古屋市立大学大学院医学研究科乳腺外科学分野・遠山竜也氏)
では、こうした取り組みについて議論された。
日本発のエビデンスを中心に、初発乳癌に対する術前化学療法の
新たな動向が紹介され、また再発乳癌ではQOLの維持に配慮しながら
生存期間の延長を目指す治療法の開発について報告された。
術前化学療法が個別化治療の礎の1つに
国立病院機構大阪医療センター乳腺外科の増田慎三氏は、
日本と韓国が共同で行ったCREATE-X試験の結果を中心に解説し、
術前化学療法の治療反応性を指標として、術後の薬剤や治療強度を
変更することが予後の改善につながる可能性を示した。
乳癌の術前化学療法では、より高いpCR率が期待できる
レジメンの開発が行われてきた。
一方で、pCRが得られない予後不良の患者に対する治療法の開発も課題とされ、
JBCRG(Japan Breast Cancer Research Group)が取り組んだのが
CREATE-X試験だった。同試験は、中間解析で主要評価項目を達成したことが
明らかになり、早期中止となっている。
(N. Masuda, et al. N Engl J Med 2017;376:2147-59)
対象は、HER2陰性乳癌で、術前化学療法としてアンスラサイクリン、
タキサン、または両方が投与され、pCRが得られなかった患者、
もしくはpCRが得られても腋窩リンパ節転移陽性の患者だった。
患者は術後、内分泌療法と放射線療法を含む標準的な治療を受ける群(対照群)、
または標準的な治療にカペシタビンの投与を追加する群(カペシタビン群)に
ランダムに割り付けられた。カペシタビンは2500mg/m2/日を2週投与、
1週休薬のスケジュールで投与し、最初の50例で6サイクルの安全性を確認後、
8サイクルに延長された。主要評価項目は無再発生存率(DFS)、
副次的評価項目には全生存率(OS)などが含まれた。
日本と韓国から910例が登録され、最大の解析対象集団(FAS)は
カペシタビン群443例、対照群444例となった。ベースラインの患者背景は
両群でバランスがとれていた。
主要評価項目であるDFSはカペシタビン群で有意に改善し、
ハザード比0.70(95%信頼区間:0.53-0.92)、p=0.01となり、
3年時には8.8%の差が開いた。
OSも、ハザード比0.59(95%信頼区間:0.39-0.90)、p=0.01となり、
3年時には4.8%の差を認めた。
DFSとOSのサブグループ解析では、トリプルネガティブ乳癌、
術前化学療法の組織学的治療効果が0、1a、1bの群、
リンパ節転移陽性の場合に、特にカペシタビンの併用効果が高かった。
トリプルネガティブ乳癌では早期の再発の抑制がOSの延長につながっていること、
エストロゲン受容体(ER)陽性乳癌でも併用効果が認められる傾向があることも
示された。同試験の結果について、増田氏は
「術前化学療法は個別化治療の1つの礎として使用できることが
証明されたのではないか」と話した。
この試験と同様に、治療効果が十分であればその治療を継続する、
もしくはその後の治療を軽減する、一方、効果が不十分であれば
新しい薬剤を使うというコンセプトに基づき、現在複数の臨床試験が
進行している。術後療法として、ER陽性HER2陰性乳癌でS-1を評価する
POTENT試験、術前化学療法後の再発リスクが高いホルモン受容体(HR)
陽性HER2陰性乳癌でCDK4/6阻害薬palbociclibを評価するPENELOPE試験、
BRCA1/2変異陽性HER2陰性乳癌でオラパリブを評価するOlympiA試験、
術前化学療法で癌が遺残したHER2陽性乳癌でT-DM1を評価する
Katherine試験などが代表的である。
「我々は、ホルモン陰性乳癌やHER2陽性乳癌では
比較的高い確率で癌の完全消失(SpCR)が得られることを、
術前化学療法の経験から学んできた」と増田氏は述べた。
全身療法と局所療法(手術や放射線療法)が生存改善効果に与える影響は、
基本的に相反する関係とされている。
つまり、全身薬物療法の感受性が高いサブタイプでは、
それにより原発巣や遠隔微小転移巣の消失が高い確率で想定されることから、
逆に手術や放射線治療の生存への影響は過小になる。
増田氏は「その視点に基づき、いかに手術や放射線治療を省略できるかの検証が、
次なる我々が目指すところであり、英知を結集し、
臨床試験立案がなされているところである」と語った。
そして増田氏は「ダウンステージングを目標として標準化してきた術前化学療法は、
その治療反応性を評価し、個別化治療の実践につなげることが
今後の1つの新しい方向性になると考える」と述べた。
<中略>
シンポジウムの最後に、座長の遠山氏は
「日本発のエビデンスなどを中心に解説していただいた。
今後も先生方には日本の臨床試験をさらに牽引していただきたい」
と述べた。
日本における乳がん罹患者は年々増加傾向にあるが
逆に海外に依存しない日本人にあった治療を助ける薬を開発し
治療法を探し続ける医師がいる限り、
完治できるのが乳がんであると思います。
その為には、早期発見、早期治療が大切なのは元より
生活習慣の改善や食生活の見直しも必要になってくる。
薬や医者に依存した治療ではなく
患者も協力して治療に向かうことが本当の医学道なのではないかと
私は思う。